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「出来事」と「感情」の切り離し
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トラウマを思い出さないようにできるかというと、それはほぼ不可能です。そこで考えられているのが、「出来事」と「感情」のリンクを切る方法です。
もともとPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、ベトナム戦争に行った兵士に起こった現象として名づけられたものですが、現在、米退役軍人省(国立PTSDセンター)は、イラク帰還兵のケアに取り組んでいます。同省では、世界最先端のPTSD治療を研究しています。
その一つの方法がバーチャル・リアリティによる訓練です。イラクを再現した「バーチャル・イラク」を3Dでつくり、ゴーグルをはめてその中に入ります。爆弾の爆発など、様々な出来事が生じます。しかし、爆発は起こるけれども、今いる場所は、アメリカ国内の快適なケア施設内であり、現実には何の危険もない場所にいます。トレーニングを繰り返すことによって、「頭の中にフラッシュバックすることは、バーチャル・リアリティの映像と同じで、架空のものに過ぎないんだ」ということを学習していきます。
こうして、イラクでの出来事を思い出すけれども、感情は大きく反応しない状況をつくっていこうとしています。
上の写真のトラを見てください。怖いと感じる人もいるかもしれません。しかし、「単なる写真じゃないか」とか「画面が光っているだけじゃないか」と捉えることもできます。そういう見方をする人は、怖いといった感情は生じていないはずです。同じ映像を見たり、思い出したりしても、感情を伴うこともあれば、感情を伴わないこともあります。
トンチで有名な一休さんは、屏風のトラを「さあ、ここに出して下さい」と言いましたが、絵に描いたものは、あくまでも絵に描いたもの。架空のものは架空のものです。
人間に「思い出すな」と言っても無理な話です。しかし、感情をあまり伴わないようにすることは不可能ではありません。「感情さえ伴わなければ、嫌な出来事を何回思い出してもまったくかまわない」という現実的な発想による対処法です。