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                              ストレスケア・ドットコム 代表コンサルタント 加藤貴之


 メンタルヘルス先進国であるアメリカの辿ってきた道を見てみましょう。きっと、日本における効果的なメンタルヘルス対策のあり方にも参考になると思います




   <目次>

 1990年以前の状況(ADA制定以前)

  ・1988年 大統領選挙で候補者の精神科通院歴が問題に
  ・社会に根付くメンタルヘルスに対するスティグマ(偏見)


 1990年以降のメンタルヘルス政策 アウトライン


 ジョージ・H・W・ブッシュ政権のメンタルヘルスへの取り組み

  ・メンタルヘルス政策の流れを変えたADA


 ビル・クリントン政権のメンタルヘルスへの取り組み

  ・白人男性の自殺率が上昇
  ・空軍が自殺対策に乗り出す
  ・ホワイトハウスで史上初のメンタルヘルス会議


 ジョージ・W・ブッシュ政権のメンタルヘルスへの取り組み

  ・メンタルヘルス政策を公約に
  ・教育・メンタリング政策も同時に推進
  ・メンタルヘルス委員会からホワイトハウスへ最終報告書
  ・前例のないメンタルヘルス改革キャンペーン
  ・青少年の自殺予防法、退役軍人の自殺予防法が成立
  ・イラク帰還兵のPTSD対策が急務に
  ・スティグマ対策のための国防総省の様々な取り組み
  ・セキュリティ・クリアランス基準の歴史的な変更
  多くの人が待ち望んだメンタルヘルス・パリティ法がついに成立


 日本が参考にできること






1990年以前の状況 (ADA制定以前)



 1988年 大統領選挙で候補者の精神科通院歴が問題に

 1972年の大統領選挙のとき、民主党の副大統領候補にうつ病治療歴があることが判明し、副大統領候補は辞任に追い込まれました。また、1988年の大統領選挙のときにも、候補者自身の精神科通院歴の有無が問題とされました。これらは社会における精神科通院に対する偏見(「スティグマ」と呼ばれています)の一つとされています。

 ただし、社会の側が一方的に理解不足というわけではなく、やむを得ない面があったのも事実です。

 というのは、米国の大統領は核兵器の使用を決断する立場にあり、「もしかしたら精神的に不安定かもしれない人に核の使用権限を委ねられるだろうか」という不安を多くの国民が持ったという側面もあるようです。(注:1988年は、まだ冷戦が完全に終結していなかった時期です)

 また、核兵器使用の判断にまでは至らずとも、「精神的に不安定な人が国家の安全保障の最高機密情報にアクセスすることが適切か」というテーマも関係していました。



 社会に根付くメンタルヘルスに対するスティグマ(偏見)

 アメリカでは、企業経営者や政治家で精神科に通っている人は何人もおり、比較的気軽に精神科に行ける文化があるようです。しかしながら、企業経営者や政治家などが精神科でカウンセリングを受けていることが報道されると、多くの場合は、認めずに、必死になってそれを否定しようとします。前出の大統領候補の例でも、候補者は通院歴の有無などについての公開を拒否し、それがいっそう疑念を生んだとされています。

 エグゼクティブたちが通院歴を否定しようとするのは、「自分の心をコントロールできない人間が、会社をコントロールできるのか、国をコントロールできるのか」と能力を疑われてしまうことがあるからです。

 自己コントロール能力がないとみなされることは、経営者や政治家にとっては、リスクの高いことなので、実際には精神科に通っていても、「通っていない」と否定するケースが少なくないようです。

 ただし、現実には、うつ病経験を持つ大統領はいたとされており、その中には高い評価を受けている大統領もいます。やはり、候補者の精神科通院歴が話題になるのは、「スティグマ」と呼ばれてもおかしくないものだろうと思われます。




1990年以降のメンタルヘルス政策 アウトライン




共和党政権民主党政権

1990年 障害者法ADA成立(ジョージ・H・W・ブッシュ大統領)


1999年 ホワイトハウスで史上初めてメンタルヘルス会議(ティッパー・ゴア副大統領夫人)


1999年 米軍にストレス対策を指示(ビル・クリントン大統領)


2002年 メンタルヘルス委員会設立(ジョージ・W・ブッシュ大統領)


2003年 メンタルヘルス委員会、メンタルヘルス改革についての最終報告書を大統領に提出


2004年 青少年の自殺予防法GLSMA成立


2007年 退役軍人の自殺予防法JOVSPA成立


2008年 米国政府及び米軍 セキュリティ・クリアランス基準の変更


2008年 金融安定化法(メンタルヘルス・パリティ法を含む)成立






ジョージ・H・W・ブッシュ政権のメンタルヘルスへの取り組み



 メンタルヘルス政策の流れを変えたADA

 1990年に、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、障害者の差別を禁止する法律(ADA)にサインしました。これが後々メンタルヘルス対策において、非常に大きな影響力を持つことになります。

 現在、米国の企業がメンタルヘルス対策として取り組まなければならないことは、このADAに基づく対応が大きなウェイトを占めています。ADAを知ることは、米国企業のマネージャーにとって、不可欠なこととされています。

 しかしながら、1990年当時はまだADAの初期段階であり、米国政府のメンタルヘルスへの取り組みも、それほど大きなものではなかったようです。(なお、企業サイドでは、この時期には既に、EAPという形で独自のメンタルヘルス対策が行われていました。)




ビル・クリントン政権のメンタルヘルスへの取り組み



 白人男性の自殺率が上昇

 ビル・クリントン大統領が就任したころ、アメリカではダウンサイジング、レイオフが盛んで、IBMやボーイングなどで大量の人員削減が行われていました。それまではブルーカラーを対象とした雇用調整が主でしたが、このころにはホワイトカラーもその対象となり始めていました。雇用の不安定化によって、多くの人がストレスを感じていたようで、同時期に米国では白人男性の自殺率が高まりました。

 しかし、白人男性の自殺率に関しては、米国ではあまり関心を持たれませんでした。女性、子供、少数民族については話題になることが多いのですが、弱者とみなされていない白人男性については、関心が低かったようです。

 特に、民主党政権は伝統的にマイノリティ(少数民族など)の支持を受けており、白人男性のケアについては、あまり目が向けられない傾向にあります。



 空軍が自殺対策に乗り出す

 90年代半ば過ぎになって、米国空軍が自殺対策に乗り出しました。

 空軍では、重大な出来事については、毎日上層部に報告書が上げられますが、その中に自殺事例が報告されることが多くなっているということに上層部の人間が気づいたためです。

 自殺対策に取り組まなければならないと考えた空軍では、副参謀総長から自殺対策に取り組むように指示が出されました。

 詳細は省きますが、レベル1〜レベル4の「4つの介入」を核とした様々な取り組みが行われた結果、自殺者は大幅に減少しました。空軍の取り組みは、コミュニティ・アプローチと呼ばれ、米国で最も成功した自殺予防対策の一つと考えられています。(内閣府の平成19年版『自殺対策白書』においても、米国空軍の取り組みが1行だけですが触れられています)



 ホワイトハウスで史上初のメンタルヘルス会議

 クリントン政権の中には、熱心にメンタルヘルスに取り組んでいる人がいました。それは、ゴア副大統領夫人のティッパーさんです。

 ティッパー夫人は、心理学のマスターを持っている人で、かねてから、メンタルヘルスやホームレス支援に取り組んでいました。彼女は、クリントン政権でメンタルヘルス政策顧問を務めており、メンタルヘルスに関しての国民の偏見を取り除きたいという考えから、1999年に史上初めて、ホワイトハウスでメンタルヘルス会議を開催しました。この会議には、クリントン大統領夫妻、ゴア副大統領も出席しています。この時点においても、メンタルヘルスに関する偏見が根強く残っており、ティッパー夫人は、これを「20世紀最後の偏見」と呼び、少しでも取り除きたいと考えたのです。

 なお、このときクリントン大統領は声明を出し、空軍の自殺予防対策の実績についても触れつつ、「国防総省は司令官たちにストレスについての理解を深めるようにさせることが重要である」と述べています。そして、最高司令官として、国防総省にストレス・コントロールについてのプランを作るように命令を出しました。

 ホワイトハウスでのメンタルヘルス会議は、2000年の大統領選挙に出馬予定のゴア副大統領夫妻にとって、政治的デモンストレーションの意味合いもあったでしょうが、メンタルヘルスの重要性をメディアに報じてもらい、少しでも偏見を取り除いてもらうことが狙いとされています。同会議が史上初という点から見ても、ホワイトハウスが本格的にメンタルヘルスに取り組む姿勢を示したのは、1999年が最初と言えます。






ジョージ・W・ブッシュ政権のメンタルヘルスへ取り組み



 メンタルヘルス政策を公約に

 ブッシュ大統領は、テキサス州知事時代からメンタルヘルス対策に取り組んでいたこともあり、メンタルヘルス対策についても公約の一つとしていました。そのため、ブッシュ政権は、歴代政権の中では、メンタルヘルス対策について最も熱心に取り組んだ政権と言えます。

 あまりにも熱心に取り組もうとしたため、反対陣営からは「製薬会社を儲けさせるためにやっているのではないか」というネガティブ・キャンペーンをされたこともあります。

 ブッシュ政権がメンタルヘルス政策に熱心に取り組んだ理由としては、政権スローガンである「compassionate conservatism 思いやりのある保守主義」の実現のためとされていますが、おそらく個人的な思い入れもあったのだろうと思われます。それは、ブッシュ大統領自身がかつてアルコール依存の時期があったこと。また、父のブッシュ大統領が障害者法ADAを成立させているため、ADAをさらに推進したいという思い入れがあったのではないかと推察できます。

 実際、2001年1月の就任から2週間程度で、ADAに基づいた新しい障害者支援政策をスタートさせています。



 教育・メンタリング政策も同時に推進

 ブッシュ大統領は教育やメンタリングの取り組みにも熱心でした。
(注:「メンタリング」とは、大人や教会関係者などが、青少年をサポートして、非行や自殺を防ぐことです。また、学力面のサポートが行われることもあります。メンタリングは、企業内でも行われていますが、政策的に取り組まれているのは、青少年などのためのメンタリングです)

 ブッシュ大統領が就任後すぐに打ち出した政策は、「No Child Left Behind (一人の子供も置き去りにしない)」という教育政策でした。また、犯罪者の子供たちに対して、「子供たちには罪はない」ということで、予算を付けて、彼らを支援するためのメンタリング・プログラムもおこなっています。

 なお、ローラ・ブッシュ夫人は、小さな子供への「読み聞かせ」に力を入れたことで有名ですし、パウエル国務長官も子供たちのメンタリングに力を入れていました。



 メンタルヘルス委員会からホワイトハウスへ最終報告書

 ブッシュ大統領は、2002年にメンタルヘルス委員会を設立しました。同委員会は2003年に大統領に報告書を提出し、メンタルヘルス改革について提言しています。そこには、メンタルヘルス教育の重要性、消費者(利用者) 中心のメンタルヘルスサービスの実現、サービス格差の是正、早期発見プログラム、より質の高いサービスの提供と研究促進、インターネットなどを活用した啓発活動の重要性などが盛り込まれています。

 この報告書では、「コンシューマー・センタード」と「リカバリー・オリエンティッド」が強調されています。メンタルヘルスの目的は、単なる「病気・障害の治癒」ではなく、「会社や社会に復帰すること」であるという意味です。

 また、報告書では、政府機関は、省庁、自治体の壁を超えて、連携して個人個人に合わせたプランを作らなければ、消費者中心のケアはできないと結論づけています。

 いずれにせよ、政府機関及びメンタルヘルス・サービス・プロバイダー(医師、精神科医、心理療法家、ソーシャル・ワーカー、EAPプロバイダーなど)は、消費者中心の発想に変革し、「会社や社会に戻って以前と同じように生活していきたい」という消費者の望んでいる最終目的を見誤ってはならないということが強調されています。



 前例のないメンタルヘルス改革キャンペーン

 この報告書をもとに、米国精神医学会をはじめ、主要なメンタルヘルス関連団体がコラボレーションを組んで、法整備を求めるなどの「メンタルヘルス改革キャンペーン」を行いました。議会関係者も超党派でこのキャンペーンを支援し、青少年の自殺防止法などいくつかのメンタルヘルス対策法が制定されています。また政府機関においては、国立精神衛生研究所によって、自殺を防止するための「Real Men, Real Depression」というこれまでにはない啓発キャンペーンが展開されました。

 また、メンタルヘルスを担当する保健福祉省SAMHSAでは、報告書をもとに、事業者向けガイドライン、教育関係者向けガイドラインを作ったり、大人向けサイト、青少年向けサイトを作ったりするなど、様々な取り組みを進めています。

 メンタルヘルスは国のあらゆる分野にかかわる問題です。自殺、犯罪、青少年非行、薬物依存、ホームレス、差別、兵士のPTSD、育児放棄、虐待、いじめ、DV、介護、終末期医療、過労、企業の生産性など、あらゆる分野にかかわっています。報告書策定以降、アメリカでは、メンタルヘルスは、国家にとって極めて重要な問題であるという認識が深まりつつあるようです。



 青少年の自殺予防法、退役軍人の自殺予防法が成立

 2004年、ブッシュ大統領は、青少年の自殺予防のために約85億円の予算を承認する自殺予防法にサインしました。この法律は、自殺をしたギャレット・リー・スミスさん(ゴードン・スミス上院議員の子息)の名前が冠せられ、GLSMAと呼ばれています。

 2007年には、退役軍人省に対して、退役軍人の自殺を予防する包括的な政策を実施するように求める自殺予防法(JOVSPA)にブッシュ大統領はサインをしました。この法律も、上記法律と同様に、自殺した退役軍人の名前が冠されています。

 なお、退役軍人省のメンタルヘルス予算は、2009年は約4000億円で、前年から約330億円の予算増が見込まれています。これは、保健福祉省のメンタルヘルス関連部局SAMHSA、NIMH、NIOSH等の予算をもしのぐ金額です。



 イラク帰還兵のPTSD対策が急務に

 イラク、アフガニスタン帰還兵の中には、PTSDやmTBIになる人が少なくないようです。それは、うつ病や自殺にもつながるものであり、早急な取り組みが要求されています。

 そのため、国防総省は、イラク、アフガニスタンの戦場の最前線に数多くのメンタルヘルス専門家を派遣していますが、PTSDになる人は後を絶たないようです。

 そこで、退役軍人省では、イラク、アフガニスタン帰還兵に対して、さまざまなノウハウを使って、PTSD対策、うつ病対策、自殺予防対策に取り組んでいます。その中には、バーチャル・リアリティを利用して開発された最新のPTSD治療術もあります。



 スティグマ対策のための国防総省の様々な取り組み

 国防総省は、兵士たちに、心の不調を感じたときには治療を受けるように繰り返し教育をしています。それでも、兵士たちは、治療を受けようとしません。「精神科クリニックに行くなんて、冗談じゃない」「それは、弱い人間のすることだ」といった強い信念を持っている兵士が少なくないようです。

 そこで、空軍では一時「メンタルヘルス」という言葉そのものを使わないようにしていたこともあります。「メンタルヘルス・クリニック」という言葉は利用者にとってのイメージが悪いという理由から、「ライフ・スキルズ・サポート・センター(LSSC)」という名称に変更をしました。

 しかし、「ライフ・スキルというのは、社会適応能力が未熟な子供たちが身につけるもの」というイメージがあるらしく、この名称でも、兵士たちの多くは治療を受けに行こうとしなかったようです。

 国防総省は、説得の方法を変えました。「メンタルヘルス・クリニック」という言葉を使わないようにするといった、小手先の名称変更だけでは、メンタルヘルスに対するネガティブなイメージはぬぐい去れないとのことから、「治療を受ける意義」を強調する方法に変えています。

 「治療を受けることは、弱いことではない。治療を受けることは、勇気のあることだ」

 「治療を受けることは、強さの証である」

 ゲーツ国防長官、マレン統合参謀本部議長が、繰り返しこうしたメッセージを送り続けています。



 セキュリティ・クリアランス基準の歴史的な変更

 国防総省は、様々な取り組みを続け、スティグマ対策も行ってきましたが、それでも兵士たちは治療を受けようとしないケースが少なくありませんでした。

 なぜ、それほど兵士たちが精神科での治療を拒むのか。

 そこに、大きな課題が浮かび上がってきました。それは、「セキュリティ・クリアランス(人物証明)」の問題です。

 米国では、国家の重要機密情報にアクセスするためには、一定の要件を満たす必要があります。その要件の中に、実は、メンタルヘルスの問題が含まれていたのです。

 セキュリティ・クリアランスの基準の中には、カウンセリングを受けた経験の有無を問うものがあり、基準をクリアできないと、重要機密にはアクセスできません。兵士にとって、重要機密にアクセスできないことは、作戦にかかわれないということであり、また、昇進できないことを意味します。
 つまり、「精神科でカウンセリングを受けてしまうと、自分の任務やキャリアにマイナスの影響を及ぼす」と考える人が少なくなかったのです。そのような不安を抱いていれば、精神科で治療を受けようという気にはなれません。これも、メンタルヘルス治療のバリアの一つであり、このバリアを取り除かない限り、兵士は治療を受けようとしてくれないという結論に至ったようです。

 そこで、米国政府は、セキュリティ・クリアランスから、精神科での治療の有無を尋ねる要件をはずしたのです。(ただし、一部例外はあります)

 テロとの闘いを続けている米国政府にとって、セキュリティ・クリアランスの要件を緩和することは、非常に大きな決断です。歴史的な変更と言われていますが、それだけ、帰還兵のPTSD問題が深刻であることの表れとも言えます。



 多くの人が待ち望んだメンタルヘルス・パリティ法がついに成立

 まさに、長い長い闘いでした。

 もとをたどれば、30年前に行き着くほどの課題がついに達成されました。

 フォード大統領夫人、カーター大統領夫人など、歴代大統領夫人たちも望んできた、メンタルヘルス疾患と体の疾患の保険の取扱の不平等をなくす法律がようやく成立しました。

 この10年以上、上院、下院で真剣な議論が続いてきているのに、なお利害の対立で成立しなかった法律でした。

 ブッシュ政権はこの法律成立には力を入れていましたが、しかし、コスト負担を伴う企業経営への影響も考慮し、コストが増大しすぎる案ではなく低コスト案を支持する姿勢でした。
 上院、下院で別々の法律が通過し、ブッシュ政権は上院案を支持していましたが、下院はなかなか譲りませんでした。しかし、多くの人が利害を超えて話し合った結果、修正案が上下両院で可決され、ブッシュ大統領がサインして成立しました。ブッシュ大統領はテキサス州知事時代にも同様のメンタルヘルス法にサインしており、州法と連邦法の両者の成立にかかわったことになります。

 ちなみに、不思議に思われる方がいるかもしれませんが、このメンタルヘルス・パリティ法はリーマン・ショックをきっかけとした金融危機を受けて緊急成立した「金融安定化法」の一部なのです。

 この法律の成立によって、メンタルヘルス疾患を持つ多くの人が、体の疾患と同等の保険を受けられるようになりました(施行日以降)。約1億1300万人の保険が改善されると推測されています。

 これまでは、通院回数、入院日数などの事実上の上限があったメンタルヘルス疾患の保険が、体の病気と同等の保険となり、患者とその家族にとって希望の持てる状況が作り出されたようです。
 米国精神医学会をはじめ、この法律の成立を推進してきた人がみな歓迎する、まさに「歴史的な法律」と言われています。


 この法律成立の意義は、治療の際の経済的な面にとどまるものではありません。メンタルヘルスに対する偏見と差別を減らすことに、大統領・上院・下院が共同して国家として真剣に取り組むことを示したという点で、とても大きな意義があると考えられています。


 今、アメリカでは「医療保険改革」が、次期オバマ政権の大きなテーマとなってきていますが、この法律の成立はその先駆となるものであり、今後の展開に明るい見通しを持たせるものとして、多くの人が期待を寄せています。




日本が参考にできること


 上記のように、過去20年間以上にわたって、米国は様々なメンタルヘルスの取り組みを続けています。それでも、依然としてスティグマは続いており、治療を受けたくないという人も多く、メンタルヘルス政策の課題はいくつも残っているようです。

 しかし、2008年10月に長年の懸案だったメンタルヘルス・パリティ法が成立するなど、徐々にですが、確実に進歩してきています。

 これらの米国の試行錯誤のうち、日本の状況に適合する方策で、実効性のありそうな方策を取り入れていくことが効果的ではないかと思います。


 より良い社会システムを目指して模索中の米国の試行錯誤の情報が、日本のメンタルヘルス政策・対策における何らかのヒントとなるのではないでしょうか。

(2008年11月)




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